PHANTOM FROM SPACE（1953年）　ファントム・フロム・スペース
Horrors From Space Collection
(Teenagers from Outer Space, Phantom from Spapce and Killers from Space)

　えー、本作はかの名監督、ビリー・ワイルダーの弟（笑）、W・リー・ワイルダーが53年に撮った空飛ぶ円盤がおっこちちゃった、宇宙人、こまって地球を歩きまわるの巻SF映画であります。宇宙人の姿を含めて全体の印象がどことなくハワード・ホークスの『遊星よりの物体Ｘ』に似ているのですが、こちらは宇宙人にちょっぴり同情しちゃうようなツクリになってます。これはユダヤ人で赤狩りに怯えていたワイルダー監督のあてこすりなんでしょうかね。

　冒頭、これはある奇怪な事件の記録であり、本来は機密である旨の結構かっこいいナレーションで映画は幕を開けます。いつもと変わらぬ日常であったはずが、北極点から高速で移動する未確認飛行物体がレーダーに捕らえられたことを切っ掛けに一気に非日常へ突入する、いかにもSFらしいオープニングが秀逸、秀逸。この映画、侮れません。

　未確認物体はその後も高度と速度を落としつつ、南下、アラスカを経てアメリカ本土に到達、シアトル、サンフランシスコ、LAまで侵入されるにいたって、軍部はついにレッドアラートを宣言します。しかし、未確認物体はサンディエゴ付近でレーダーから消え、その行方を眩ましてしまいました。

　一方、LA近辺ではラジオ放送に電波障害が発生、住民の苦情を受けた通信局は数台の移動電波探知車を派遣して、妨害源の発見に努めていました。その中の一台が海岸付近を通りかかったところ、助けて、助けてと叫びながら走ってくる女性に遭遇します。「私の夫と友人がへんなヘルメットを被った顔の無い男に襲われたの、助けて」通信局員　ヘイゼン（テッド・クーパー）は直ちに警察に通報しますが、時すでに遅く、彼女の夫は死亡、友人の男性も重症を負ってしまいました。

　LAPDのバウァー警部（ハリー・ランダース）はこの女性と友人の狂言ではないかと疑いますが、続いて第二の殺人事件が起こり、しかもまた変なヘルメットを被った顔の無い男が目撃されたことから、本当の殺人であると考え直します。そして、さらに製油所で火災が発生したので、スパイによるサボタージュではないかと考え、ワシントンに報告。意外にもグリフィス天文台へ行って、ワイアット博士（ラドルフ・アンダース）、アンドリュース少佐（ジェームズ・シーェイ）に会えという指示を受けるのでした。天文台へ急行するバゥアー警部とヘンゼル通信局員、そこで、彼らは正体不明の飛行物体がレーダーに捕らえられていたことを知らされます。ワイアット博士とアンドリュース少佐は、その飛行物体がこの事件に関係しているのではないか
と考えたいたのです。

　そうこうしているうちにまた製油所で電波障害が探知されます。ソレッとおっとり刀で駆けつける、ワイアット博士、アンドリュース少佐、バゥアー警部、ヘンゼル通信局員、その他大勢の警察官、あとおまけの新聞記者。ガイガーカウンターでの捜索が開始されるなか、ちらちらと画面に現れるヘルメットを被った怪しい男。うちゅーじんだ、宇宙から来たファントムだ。鳴り響く荘重なテルミンのBGMがかっこいい。

　ファントム（ディック・サンズ）は逃げ回るうちに、小屋においつめられてしまいます。さあ、光線銃でも出して反撃開始と思ったら、いきなり宇宙服を脱ぎだしたという・・・。このファントム、なぜか透明なんですな。目撃者が証言した顔のない男という表現はある意味、正しかったのです。すっかり宇宙服を脱いでしまったファントム、脱ぎ捨てた宇宙服を丁寧に折りたたむのがオカシイ、銭湯の作法がきちんと躾られているとみえますな。

　ちなみにこの宇宙服は50年の『月世界征服』の流用で、新たにパイプとチューブをとりつけもの。だから、ファントム、丁寧に扱っているんでしょうか。

　小屋に突入してくる地球人たち、ファントムは透明だから当然見つかりません。その代わり、彼らはヘルメットと宇宙服を見つけてグリフィス天文台に運びこむのでした。ファントム、あせったね、「あ、まずいじゃん、あれないと、おれ、息できないじゃん」　ファントムは車にこそっと忍びこんで天文台について行くのでありました。宇宙服とヘルメットを調べる、ワイアット博士とアンドリュース少佐、助手のバーバラ（ノレーン・ナッシュ）。宇宙服は強い放射能を帯びており、この放射線が電波障害の原因であったことが分かりました。ついで、鋏やナイフを使って宇宙服を切り裂こうとする博士と少佐、ファントム、見ていたらきっとあせったね、「あ、あれ、俺の一張羅じゃん、そんな、あ、やめて」あまつさえ、バーナーで炙る博士と少佐、ファントム、見ていたらきっとあせったね、「あ、燃やしてんじゃん、そんな、あ、やめて」幸いにも彼の宇宙服は大変に丈夫だったので、どうにもなりませんでしたとさ。

　一人研究室に残っていたバーバラ、何時のまにか、ヘルメットが空中に浮かんでいるのをみてぎょっとします。ファントムがやって来たのです。ぜーぜーはーはー、ファントム、やっとヘルメットの呼吸用大気が吸えたので、息が荒いんです（笑）。今までウンと息つめてたんです。ジャック・マイヨールもびっくりですね。怯えるバーバラに向かってファントムは鋏を掴むとこん、こんと机をつつき出します。バーバラが気丈にもそばの紫外線灯を手にとって照らしてみると、わあ、手が見えた。バーバラ、悲鳴をあげます。なおも、こんこんと机をつつき回す、ファントム。バーバラは「分かったわ、モールス信号みたいなものね、待って今、メモをとるから」近くにあったメモ用紙にファントムが立てる音のリズムを記録します。「ワン、ツウ、ワン、スリー」なんなんだかなあ。

　そこへ飛び込んできた、博士、少佐、警部たち、ファントムは風を巻いて窓から逃げ出すのでありました。ここで、博士による、ファントムについての調査と考察が語られます。「ファントムは我々と違った生態系の星からやって来た宇宙人。彼らは酸素の変わりにメタンを呼吸する、彼らの体の構成元素はシリコンであり、だから、我々の目にはみえないのだ。彼は各地で目撃された飛行物体で地球に飛来したのだが、恐らく海にでも墜落してしまい、辛うじて彼だけが脱出したのだろう」　張り切る警部、じゃあ、彼奴は地球の大気を呼吸できないんですね、そうしたらこのヘルメットに残っている大気を呼吸するためにまたここへ戻ってくるんですね。彼らは天文台のあちこちに探知装置を配置して、ファントムを待ち構えるのでした。

　ぴーぴー、探知装置が鳴って、あ、ファントムだ、それっ！みんなで駆けつけるとそれは天文台にスクープを狙って忍びこんで来たおまけの新聞記者でした。その間、こりもせず、また研究室で一人になるバーバラ。そこへ現れるファントム！というのは定石ですな。彼女の悲鳴を聞いて駆けつけた博士、少佐、警部、おまけの新聞記者、なんとかファントムとコミュニケートしようとするのですが、うかつにも新聞記者が写真を撮影しようとしてフラッシュをたいてしまいました。「ワッ！」びっくりしてヘルメットを放り出すファントム。彼の大事な大事なヘルメットは粉々になってしまいます（笑）。

　またも逃走するファントムでしたが、彼の命運はすでに尽きていました。ファントムはもはや帰る望みのない故郷を懐かしむかのように、観測室の大型望遠鏡に登り、ついに窒息して落ちてしまいます。絶命して、"物体Ｘ”そっくりの姿をあらわすファントム。彼の死体は見る見るうちに蒸発してしままうのでした・・・。なんとも釈然としないキモチで観測室を後にするワイアット博士、アンドリュース少佐、バゥアー警部・バーバラ達、ここでエンドマーク。

　以前ディレクＴＶのＳＦチャンネルで見た時は博士の考察、ファントムは地球に事故で不時着した云々がカットされていたので、この宇宙人、地球くんだりまで何しに来たのやと考えざるを得ませんでしたが、こういった事情ならば話は別、言うならば地球に難破した宇宙人が未開の現地人に追い掛け回され、宇宙服を盗まれて窒息しするという、可哀想な、可哀想な物語だったのですね。

　『宇宙からの殺人者』『宇宙からの妖怪』『宇宙から来たティーンエージャー』が1枚のＤＶＤに収められた『ホラーズ・フロム・スペースコレクシション』、画質は他の2作品と同様に最悪です。モノクロながら、黒の諧調がまったく表現されず、暗いシーンが見づらいったら、ありゃしない。一度、画面がぱぁっと白くなったので、てっきりプレーヤーが故障したのかと思いましたヨ。モノクロ・スタンダード・モノラル音声。聞きやすい音なのが唯一の救いです。

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