Road To Singapore (1940)　シンガポール珍道中

　『シンガポール珍道中』（1940年）は記念すべき“珍道中シリーズ”の第一作、そのため、フツーの南海音楽映画に、ボブ・ホープ、ビング・クロスビー、ドロシィ・ラムーアのそれぞれの芸をフィーチャアしたような趣になっております。『モロッコの道』みたいにギャグを積み重ねてストーリーを作るといったようなモダンさは少しもなく、まあ、古いミュージカル映画とでも思っておけばよろしいですな。

　警告、警告、このＤＶＤのリージョンは1です。したがって日本国内のＤＶＤプレーヤーでは再生できません。警告、警告。

　久しぶりに母港へ戻ってきた二人の船乗り、エース・ラニガン（ボブ・ホープ）、ジョシュ・マローン（ビング・クロスビー）。懐かしさに胸を膨らませている彼らの前に数人の男達が現れます。男達はエースを彼のガールフレンドの結婚式場へ連れていこうとするのでした。なんと、花婿はエース自身だというのです。「えー、そんなー、映画見に行っただけだよ」エースの抗議も聞き入れてもらえません。エースとジョシュは顔を見合わせるとセッセッセ、パラリトセ（原語ではPatty cake patty cake baker's man）を始めます。男達が気をとられるところにソレッと殴りつけ逃げ出す二人、警察まで出動する大騒ぎになってしまいました。

　実はジョシュはマローン海運会社の跡取息子。「こんな事件を起しおってマローンの名折れじゃ」とパパ（チャールス・コバーン）に叱られます。「お前もいつまでも船乗り稼業でもなかろう、そろそろウチの会社の経営陣に加わりなさい」説教の最中に登場したのが、ジョシュの婚約者、グロリア」・ワイコット（ジュディス・バレット）、あまったるく「ダーリン、婚発表パーティがもうすぐね」とジョシュにしなだれかかります。ジョシュ、いささかうんざりの呈。

　ジョシュはエースの船に乗り込み、能天気な会話をしながら、釣りを楽しむのでした。その竿に掛かったのは大カジキ、二人は四時間の奮闘のすえ、見事大物をしとめますが、婚約パーティに大遅刻。ジョシュとエースは婚約パーティが行われているクルーザーに、意気揚揚と乗り込み、カジキをどさっ。驚いているパーティの客の前で「カスタード船長」の歌とダンスを披露します。これが大受けしたので、面白くないのがグロリアの弟ゴードン、彼はあからさまに二人を芸人扱いしてバカにしたので、またも起きる大乱闘。二人はこの騒ぎを利用してどこへともなく逐電してしまいました。後日、今、シンガポールにいまーすという絵葉書が送られてきて、パパ、呆れて口も利けません。

　シンガポールの田舎町、カイグーンで怠惰な暮らしを楽しんでいる二人。お金はないけど、自由って素晴らしいなと海辺の粗末な小屋で相変わらず能
天気な生活を送っております。そんな二人が酒場で出会ったのが、シーザー（アンソニイ・クイン）という男と組んでムチダンス？をやっていた踊り子、ミーマ（ドロシィ・ラムーア）でありました。シーザーが、見事なムチさばきで、ミーアの咥えていたタバコを叩き落す芸を披露するとエースがぽつりと「あの男、彼女によっぽどタバコやめさせたいんだね」と呟くのがオカシイ。ダンスが終わって観客の喝采を受ける、シーザーとミーア。ところがミーアが二人のアメリカ人に特に丁寧にお辞儀をしたので、嫉妬にかられたシーザーはムチでジョシュの持っていたビールのグラスを叩き落としてしまいます。セッ、セッ、セッ、パラリトセ、またまた起こる大乱闘。まだ冒頭から30分しか経っていないのに、三回目ですわ。二人はどさくさまぎれにミーアを連れて逃げ出すのでした。

　こうして、二人の男と一人の女の奇妙な共同生活が始まります。ミーアは「床にタバコの吸殻を落とさないで」、「部屋はきれいにしとかないと」いろいろ口うるさいのが玉に瑕なのですが、二人は次第に彼女へ引かれていきます。エースなど、夜中にミーアが「ムーン・アンド・ザ・ウィロウ」を歌っているのを聞いて、寝床から這い出そうとするくらいです。「何するつもりなんだ」と鋭く尋ねるジョシュ。「いや、外の空気を吸ってこようと思ってさ」うろたえるエースににべもなく「外の空気は体に悪いんだ、いいから黙って寝ろ」ジョシュ、厳しいんです。

　そんな二人の恋心、ミーアの「あのシーザーという男はもとは母親のパートナーだったの。母親が死んだので仕方なく彼と組んだんだけど、、最近彼が私を狙うようになってきて・・・」という身の上話を聞いていや増すばかりであります。二人はミーアを連れ戻しにきたシーザーをエイヤッとやっつけたりして、楽しい毎日を過ごすのですが、いよいよお金がなくなって、エース、ミーアの洗濯せっけんをビンに詰めて売ろうと考ます。このビンさえ、あれば、どんな染みでもあっという間にとれてしまいますというワケ。さっそく三人は街頭でそのスーパー石鹸を売り始めますが、鴨にしようとして引っ張り込んだ男（ジェリー・コロンナ）の背広に石鹸を塗ると染みが落ちるどころか泡がぶくぶくぶく。エースが「そう、この泡が染みを落とすんです」と背広をなぜると、ぼろぼろになってしまいました。すたこら逃げ出す三人。

　その頃、マローン海運のシンガポール支社に回ってきたジョシュの手配書（笑）。支社の隣に住んでいた背広の男はぐうぜんジョシュの写真を見て、「コイツヨ！コイツ、ワタシノイッチョウラ、ボロシタヨ、コイツ、ワルイヤツ！」この知らせを受けてマローンパパ、グロリアがシンガポールへ乗り込んでくることになりました。

　石鹸商売がダメになっていよいよ困窮しているエース・ジョシュア・ミーアの3人、カヌーの少年に現地人のお祭りに行けば食べ物が貰えると聞いたもので、むやみにはりきって顔を茶色に塗りカーテンを現地人の衣裳風に巻きつけていざ出撃です。彼らはまんまとお祭りに紛れ込んでようやく食い物にありついたのでした。腹がはちきれるほど詰め込んで「ああ、もう食えないよ、次のお祭りはいつになるの」というエース、ミーアが「一年にいっぺんね」と答えるのに、「長い食事の間隔だなあ」とボヤいたりなんかしております。ジョシュは食い物をどんどん土に埋めているという・・・。そこへ乗り込んできたマローンパパとグロリア。グロリアは珍妙なジョシュの姿を見てげらげら笑っただけでしたが、パパは怒り心頭。明日の船でアメリカに戻るんだと叫びます。

　小屋に戻ったエースとミーア、エースはここがチャンスと思ったのか（笑）、彼女に結婚を申し込むのでした。困りはてたジョシュも戻ってきてエースにどうしようと相談するのですが、当然、エースは「君は婚約者もいるんだし、そろそろ元の生活にもどったら」と素っ気無い態度。怒った彼はミーアにエースと僕のどちらを選ぶんだと迫ります。ためらったのち、「私はエースと結婚するわ」と告げるミーア。ジョシュがっかりして、小屋を出て行くのでありました。ここらへん、真面目なロマンス物になっちゃってて、あたくしなんぞはちとはずかしいのであります。

　ここですっかり忘れられていたシーザーが登場。彼は入出国管理局にパスポートを持っていないアメリカ人、エースがいると密告します。エースは強制退去を命ぜられるのでした。囚人護送車で港まで送られるエースでしたが、車の中で役人をノシて服装を取り替えてしまい、逆に護送車から役人をひっぱたきながら降りてきます（笑）。駆けつけたミーアも彼の目配せに気づいて、役人に取りすがって「ダーリン、行っちゃいや」可哀想に役人、アメリカへ送られてしまいましたとさ。危機を脱したエースは友達から金を借りてミーアとともにシンガポールを出る船に乗り込むのでした。

　船上で嬉しそうに結婚の予定について話すエースですが、ミーアの表情はどこかうわの空。はっと気がついたエース、男らしくも「君はジョシュが好きだったんだね、でも、彼を元の生活に戻すために俺と結婚するなんて言ったんだね、いいよ、いいよ、結婚はやめにしようよ」くー、泣かせますなあ。

　一方、アメリカへ向かう船上でぼんやりしているジョシュ。グロリアと仲がいいように見えますが、こちらもどこかうわの空であります。途中立ち寄った港でぷんぷんしながら乗り込んできたマローン海運のお得意さん、「変な男に石鹸を掛けられて背広が台無しになっちまったよ」お得意さんを迎えに出ていたジョシュはパッと顔を輝かせ、パパやグロリアの制止を振り切って船を飛び出し、港の雑踏の中で声を限りに「エース、ミーア」と叫びます。彼はまたもこりずにスーパー石鹸の啖呵売をしていたエースと、ミーア、と再会。そして、ミーアと熱い・熱い・熱いキスを交わすのでありました。

　モノクロ・スタンダード、モノラル。画質・音質とも文句のつけようがなし。極めて高品質のＤＶＤであります。英語字幕・クローズドキャプションつき。

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