透明人間　The Invisible Man　1933

　SF映画の古典中の古典、古典の兵隊の位でいえば大将軍という（訳が分から ない）『透明人間』（『The Invisible Man』1933年）であります。製作年度の古さからあまり期待はしていなかったのですが、どうしてどうして、良く出 来た映画でありますなあ。

　警告、警告、このＤＶＤのリージョンは1です。したがって日本国内のＤ ＶＤプレーヤーでは再生できません。警告、警告。

　イギリスの田舎町、季節は厳冬、びゅうびゅうと吹雪いております。その中 を進むコートに帽子にサングラス、おまけにスーツケース一つの男。男は「ア イピング村もうすぐ」という道しるべを確かめるとまた歩き出します。そして 場面は変わってアイピング村の酒場兼宿屋の「ライオンズヘッド」　地元の人々が集まって酒を飲んだり自動ピアノの音楽で盛り上がったり、なかなか楽 しそう。そんな喧騒の中、ドアがばたんと開いて入ってきたのは先ほどの男ではありませんか。突然の闖入者に驚いて静まりかえる人々を尻目に男は宿屋の女将、ジェニー・ホール（ウナ・オコーナー　ウナコーワではない）に向かって「部屋と火だ。食事も頼む」　しかしジェニーが彼のコートを乾かしましょうというと男は驚いたように「そんな気遣いはいらん、早く部屋を頼む」

　どうも変な男ですが、お客様は神様ですの精神に溢れたジェニー、男を2階の部屋に案内します。男は「この部屋の鍵は掛からないのか、むう、実際田舎の宿屋というのは困ったものだ、とにかくオレを一人にしてくれ。それとメシはまだか、オレはあのなんだ、酢豚に入っているパイナップルが嫌いだから抜いてくれ」出さんわ、そんな料理（笑）。料理を運んだジェニー、ごゆっくりと部屋をでるのですが、「あら、しまった、マスタードを忘れてたわ」この婆さん、マスタードをとって戻ってくると無神経にもドアをがんとノックしただけでバンっと開けるのです。飯を食っていた男、仰天して口元を手で隠します。「むが、な、なんば」ごくりと飲み込んで「放っておいてくれって言ったじゃないか。マスタードって、そんなものどうでもいいよ、ああ、まったく田舎者はこれだから」とジェニーを追い出してしまいました。憤懣やるかたないジェニー、階下に降りて好奇心たっぷりの村人たちに、「驚いたよ、あの人はまぁ、顔中包帯だらけで」村人、「あれはきっと刑務所から逃げてきた囚人だ、刑務所の塀を乗り越える時おっこちて大怪我したから包帯を巻いているのだ」なんて言ってます。

　再び場面は変わってここはクランレー博士（ヘンリー・トラバース）の自宅兼研究室であります。ここで博士と助手のケンプ（ウィリアム・ハリガン）、博士の娘フローラ（グロリア・スチュワ−ト）の三人が1ヶ月前に失踪したもう一人の助手、ジャック（クロード・レインズ）の行方について侃侃諤諤の大騒ぎ。実はフローラ、ジャックを愛しており、自分に何の連絡もなく消息をたった彼のことを死ぬほどに心配していたのです。博士とケンプは「あいつは怪しい実験やってたからなあ」「どうも変な奴で困ったものですよ」と意外に冷淡。ケンプに至っては鬼のいぬまになんとやらでフローラににじりより「お嬢さん、わたしのキモチ分かってますよね」と口説き始める始末。はい、この場面はとりあえずここでおしまい。

　再びライオンズヘッドに戻って、謎の男、列車便で取り寄せた試験管やビーカーなどの器具でさかんに実験をしております。しかし没頭するあまり食事を持ってきたジェニーを邪魔だと突き飛ばしてしまいました。せっかくの食事を飛ばされてしまったジェニーは怒り心頭。亭主のビル・ホール（フォレスター・ハービィ）に「あんた、あいつを追い出しておくれよ、あいつ、へんな実験部屋でするからカーペットが紙魚だらけだ。おまけに宿賃一週間遅れているし、もう我慢できないよ」よっしゃと腕まくりをして二階に上がったビル、「でてけ」と男にどなりつけ、勝手に荷造りを始めます。男は、最初はおろおろと「待ってくれ､これは生き死にの問題なのだ、私は酷い事故にあったので、それを自分で治そうとしているんだ、だから、待ってくれ、待ってくれったら、やい、やさしく言っているうちに待ちなよ」ビル、聞く耳持ちません（笑）。ついに怒り狂った男、ビルを階段から叩き起こしてしまいます。

　重傷を負った旦那にすがりついたジェニー、「警察だ、誰か警察をよんでおくれ！」駆けつけてきた警察官、数人の村人とともに謎の男の部屋へ押し入ります。男は「これが私を放っておく最後のチャンスだったのに、馬鹿な奴等だ」そう言い放つなり彼らの前で顔の包帯をとり始めます。「ぎゃっ」あまりの驚きに立ち尽くす警官と村人たち。男の包帯の下はまったくの透明だったからです。「アハハハハ、どうだ見たか、私は透明人間なのだ。ある特殊な薬液を一日一回ルル三錠じゃなかった一ヶ月間注射すればほれこの通り透明になるのだ。オオアハハハハフゥ」狂ったような笑い声を上げる男！男はすべての衣服を脱ぎ捨てたのでまったく見えなくなってしまいました。透明になった男は酒場へ降りると、ジョッキやコップを投げつけ、みんなを散々に脅かしたあげく自転車を奪って逃走したのでありました。

　クランレー博士とケンプはジャックが残したと思しきメモ（ときメモではない）を発見します。「これは薬品のリストらしい。何、モカインだと？」「どうしたんです、博士、何ですかモカインって」と我々に代わって聞いてくれるケンプ（笑）。「これはインドに自生する植物で強力な脱色作用があるのだ。早い話がなんでも白くなってしまうのだよ。しかし、強力な副作用があって、衣類の漂白に使おうとしたら、ぼろぼろになってしまって駄目。ためしに犬に注射したら真っ白になったのだがってあはは酷いことするな。犬はとても凶暴になったのだ。ジャックの奴、こんな危険な薬品で何をしようとしていたのか」ジャック、ああ、もうはっきり言ってしまいましょう。あの謎の透明人間はいうまでもなくジャックだったのです。彼はモカインを使って透明薬を作ることに成功していたのです。しかし、なんですな、脱色するから透明にって、凄く安易な気がしますが（笑）。

　はい、ここで新たな展開。透明人間ジャック、パイプを吸って寛ぐケンプの自宅に現れたのであります。驚くケンプに透明のジャックは「寒い、疲れた、腹も減った」ふわふわと暖炉の火かき棒が浮き上がって「めったなことをしやがったらこれで脳みそ口からはみ出すくらいぶん殴るからな」哀れケンプ、透明人間の命ずるままに食事や衣服、顔にまく包帯などの用意をさせられることとなります。この間、ジャックはタバコを吸ったりするのですが、透明人間だから、当然のごとく空中にタバコが浮いてふわーっとどこからともなく煙が出てくるのでありました。

　そしてジャックはケンプに向かってこんなことを言い出します。「透明のパワーで世界を征服するのだ。透明のパワーを知らさしめるために、殺人だってするのだ、列車だって脱線させてたくさん殺すのだ。君はこんなパワーのあるパートナーになりたまえ。わははは、わは、わはははは、げほ、げほ」その手始めがアイピング村のライオンズヘッドへうっかり忘れてきたジャックの研究ノートを取りにいくことだったという・・・。ジャック、ケンプに車を用意するよう命令します。「毛布も忘れずに積んでおくんだぞ。透明人間というものは寒さに弱いからな」

　その頃ライオンズヘッドでは地方警察の警視が村人を集めて事情聴取をしていました。しかし彼は村人の話をぜんぜん信用せず「お前ら、無知な田舎者め、そんなインチキな話をおえらい、いや実際実家じゃ10年に一度の神童といわれたものさ、警視であるオレさまが信じるとでも思っているのか！」この隙をついてライオンズヘッドに潜入したジャック、するすると二階の部屋に行って、ノートを窓から投げ落とします。あ、思いっきりノートの糸が見えた（笑）。下で待っていたケンプがまんまとノートを回収。ジャック、これで大人しく帰ればいいのですが、警視にインチキ扱いされて頭にきたのか、インクツボを警視の顔にばちゃ。「これでもインチキか、ええ、どうだ」首をぐいぐい締め上げます。ばたりと昏倒した警視にジャックは椅子を振り上げて「うおりゃ！」撲殺してしまいましたとさ。透明薬の影響か、どんどん凶暴になるジャックでした。

　さて目的を達したジャック、パジャマとバスローブに着替えて、ケンプに用意して貰った食事をぱくついております。「もぐ、もぐ、うむ、透明になっても飯美味いや、もぐもぐ」そうして食後1時間は透明になれない。食べたもの が消化されるまで待たなければならないのだとキミの悪いことをいうジャック（笑）。また雨の日も霧の日も透明人間にとっては良くない。水滴で見えちゃうかもしれないからなのだそうです。晴天の日しか活躍できない、そんな田舎の運動会みたいな奴ですなあ。食事を終えたジャック、またさんざんにケンプを脅しつけてから、包帯を外してベッドに入ります。

　この間、組織される透明人間の大捜査網。1,000人のヴォランティアを募って夜昼を分かたず捜索することが決定。ラジオ放送も「警告せよ、透明人間現る！」の放送を繰り返します。「透明人間が暴れております。皆様、どうか戸締りをしっかりとして早めに寝てください。透明人間逮捕に繋がる情報を提供してくださった方には警察から賞金1,000ポンドを差し上げます」

　この放送がきっかけと世間で俄かに巻き起こる透明ブーム、これにあやかって変な商品が続々と登場します。透明のり、透明ハンバーガー、透明ラーメン、透明フィッシュアンドチップス、関連書籍もどんどん出版、「透明心得」「透明と私」「我輩は透明である」「透明ごっこ」、映画だって大変です。「透明人間　ロンドン慕情」「透明人間と秘密の部屋」（あんたこればっかりですな」「透明人間3　炎の約束」・・・。うーん、すいません、考えた割にあんまり面白くなりませんでした。

　さて、ケンプ、ジャックが寝ているのを確認してからこっそりと書斎へ。彼 は電話を取り上げて、クランレー博士の自宅と警察に電話。「透明人間がいます。助けてください」どうしたらいいかと思い悩むクランレー博士。しかし話を聞いていたフローラが「あたしが行って説得するわ。お父様すぐに車を用意なさって」ジャック、博士とフローラの突然の訪問に驚くのですが、とにもかくにも二人を迎え入れます。「お父さま、あたしとジャックの二人で話させてください」ここからジャック・フローラの涙、涙の悲恋物語。「ああ、あなた、どうしてこんなことなさったの。私のことはどうなるの」「許してくれフローラ、これはみんなキミのためにやったことだ。僕は君を愛している、でも僕は一介の貧乏科学者、君とはとてもつりあわぬ身分だ。だから世界を驚かす大発明をして、有名になり、大金持ちになって君を迎えに行こうとしたんだよ」そんな君のためにって言われても困りますな（笑）。フローラは涙ながらに「もうやめて、ジャック、きっとお父さまがあなたを元に戻してくれるわ」ところがここで現れたのが警察隊。窓から忍び寄ってくる警官隊を見つけたジャック、「ケンプ、裏切ったな、誓ってお前を明日の午後10時に殺してくれる」と叫んで逃げ出します。透明となって警察官の足を掴んでジャイアントスイング。ずるっと脱げてしまった警官のズボンを身につけて走り出すジャック、ズボンだけ走ってくるのをみた夫人が悲鳴を上げるというギャグあり。

　ジャックはそれから列車を脱線させたり、銀行からお金を盗みだし、「ほ ら、透明人間からのプレゼントだ」と路上で撒いたりとやりたい放題。捜索隊にも犠牲者が続出します。一方、ケンプは恐怖におののいています。明日の午後10時に殺すとジャックは言った。ならば奴は必ず現れるに違いない！警視庁のバード警視（ハリー・スタッブス）は彼にこんな提案をします。「明日夜、我々に守られてこの屋敷を出なさい。そうして警察署に行くのです。それからあなたは警察官の制服に着替えてこっそりと戻るのです。透明人間はあなたが警察署の中にいると思い込みますよ」まあ、こんな計画がうまく行くはずがない。ジャックはあっさりと見破って屋敷に戻ったケンプを捕らえてしまいます。警察署の塀に粉をまき、スプレーガンを持って待ち構えていた警察官の皆様、ご苦労様、わははと笑ったジャック、ケンプを縛り上げ車に放り込み、ハンドブレーキを解除。しずしずと進みだした車はがけからどかーん。あっという間に火達磨となって大爆発。ジャックは約束を守ったのです。

　しかし透明人間ジャックの活躍もここまで。彼はなんとしたことか、吹雪と なった晩に暖を求めてある納屋に侵入したのです。藁の中に潜り込んで鼾をかき始めるジャック（笑）。この鼾を納屋の持ち主の農夫に聞かれて、はい、警官隊に包囲されてしまいました。「奴をいぶりだすのだ」命令一過、酷いことに納屋に火を放つ警官隊。たまらずジャック、げほげほと咳き込みながら納屋から飛び出します。積もった雪に足跡が一つ、二つ、「もうお前の好き勝手にはさせん、正義は必ず勝つ！」火を吐く警官隊の拳銃。雪がぼこりと凹みました。撃たれたジャックが倒れこんだのです。

　ジャックは病院に収容されます。もはや手の施し様のない状態で後は死を待つばかり。呼ばれてきた博士とフローラの前でついに絶命します。彼の死とともに透明薬の効果も切れて最初は骸骨、これに肉がだんだんついていって、髪の毛も現れ、おお、最後の最後に見られたクロード・レインズの顔。エンドマーク。

　主役である筈のクロード・レインズの顔が最後の最後になって現れるという洒落た趣向、また現在では陳腐化して久しい透明の特撮ですが、それでも丁寧に作ってあるので安っぽさがないのがよろしい。

　モノクロ・スタンダード、モノラル音声、解像度が低く些かノイジーな画質 でありますが、製作年度を考えたら驚異的なクォリティと言っても良いでしょう。音質も聞き取りやすく、こんなDVDなら私は千枚でも買いたい（買わないけど）。Invisible Man - The Legacy Collection (透明人間/Invisible Man Returns/Invisible Agent/Invisible Woman/Invisible Man's Revenge)のセット。UmvdのDVD。

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