The Thing With Two Heads (1972)
　　ミスターオセロマン　2つの頭を持つ男

　南アフリカのケープタウンで、人類史上初の心臓移植手術がクリスチャン・バーナード医師の執刀で行われたのは1967年12月のこと。被移植者（レシピエント）は白人、ドナーは黒人女性でした。この心臓移植のあと、移植関係者からこんな発言があったという記録が残っています。「この移植には、人にいちばん近い形をしたものを使った」私なんぞはついつい南アフリカで最初の心臓移植が成功したのは、医療技術の高さというより、極端な差別政策によって、黒人ドナーの確保が比較的容易であったためではないかと考えてしまうのです。

　1972年製作のこの映画『ミスターオセロマン』、へなへなのブラックエクスプロイテ−ションですが、上記の事件がそのモチーフとなっているのは疑いのないところ。そう思って見てみるとこのどうしようもない映画にも別のオモムキがあるような・・・、やっぱりないか（笑）。

　警告、警告、このＤＶＤのリージョンは1です。したがって日本国内のＤＶＤプレーヤーでは再生できません。警告、警告。

　マックス・クリシュナ−博士（レイ・ミランド）、彼は移植手術の世界的権威でしたが、障害で車椅子での生活を余儀なくされ、しかも末期の肺がんに犯されていました。彼は新しい移植の術式を開発しようと、ゴリラに別のゴリラの頭を縫いつけて、「よーし、このまま27日待って手術に耐えられるようになったら古い頭を切り取ってしまうのだ、そうすれば頭部の移植が可能になる」などと言っています。そのゴリラ（ぬいぐるみ製作・出演　リック・ベーカー！）、双頭のまま研究所を脱走して、スーパーマーケットに逃げ込み、両手でもったバナナをそれぞれの口に押し込んでもぐもぐやるというパフォーマンスを見せてくれますが、まあ、すぐにとっ捕まって、なんとか、古い頭の除去手術も成功。「よっしゃ、ばっちりや」、何事かを決意するクリシュナ−博士。もう皆さん、分かりましたね。

　クリシュナ−博士はもう一つの業病にもとりつかれていました。それは人種差別、せっかく、クリシュナ−博士の功績に憧れて、彼の病院と契約したという優秀な医者、フレッド・ウィリアムス（ドン・マーシャル）もただ、黒人だというだけで、「君にはこの病院は向いておらんよ」とけんもほろろ。フレッド、「そんなこと言ったって、私は正式に契約したんですよ」と憤然としますが、クリシュナ−博士は柳に風邪とばかりに受け流し「じゃあ、6ヶ月働かせてやる。あっ、もちろん、給料は最低ランクね」

　さて、肺がんがますます進行して、明日をも知れない命となったクリシュナ−博士は腹心のフィリップ・デスモンド博士を呼んで、己の優秀な頭脳を残すべく、ドナーを募って、彼の頭を移植するよう命じます。デスモンド博士はこら、大変と大慌てでドナー探しをしますが、どうも適当な候補がいません。悩んだあげく、彼は処刑間近の死刑囚から、医学実験の為のヴォランティアという名目で志願者を募ることにします。

　まんまと乗せられヴォランティアを志願したのは、死刑囚ジャック・モス（ロージィ・グリア）でありました。彼は冤罪を主張していたのですが、聞き入れられず、電気椅子送りにされたのです。志願の後、手術台に乗せられ、神経質そうに看護婦や医者に、「ね、これ、痛くないよね、痛くしないよね」と尋ねる、まるで、予防注射の順番を待っている子供のような態度がなるほど凶悪犯には相応しくないかもしれません。ですが、正直いって私にはどうでもいい。

　“痛くなかった”代わりに、クリシュナ−博士の首を縫いつけられてしまうジャック（爆笑）。この手術場面、クリシュナ−博士のホンモノの頭とダミーが上手く組み合わされていて、ダミーとばっかり思っていた頭が目をぱちくりさせるのには驚かされます。手術は見事成功、ここに世にも怪奇なるミスターオセロマンが誕生したのでした。さきにクリシュナ−博士から手ひどい扱いを受けてぶすくれていたフレッドもフィリップの説得を受けて不承不承、術後の拒絶反応の抑制に力を尽くします。

　さて、そんな皆さんの努力のかいあって意識を回復したクリシュナ−博士。「おお、て、手も動くぞ、凄い」と感激したのも束の間、皮膚がチョコレート色なのに気づいて驚愕します。「いったい全体、これはなんの冗談なのだ」一方、ジャックも、「お前等、医学実験だと口当たりのいいこと言っといてなんだ、これは」ジャックは、このヴォランティアに志願すれば、自分の無実を証明する時間の余裕が出来るかもしれないと、ムシのいいことを考えていたのです。ちょっと考えれば分かりそうなものですがね。

　ジャックは自分の手で真犯人を見付けるために往診に来た看護婦を人質にとり、脱走します。この間、クリシュナ−博士の頭はずうっと寝ていたらしくガーガ−いびきをかいているのが大笑いです。ジャックは看護婦を解放し、フレッドに車を運転させて逃走するのでありました。モタモタして、なんのメリハリもない、ジャック、パトカー、フィリップの三者によるカーチェイス。フレッドの慎重な運転に業を煮やしたジャックは運転をかわり、今しがたまでベッドにいたとは思えぬ激しい運転でパトカーとフィリップの車を振り切ってしまいます。

　ちなみにこの双頭人間、ベッドでは上下に重なって頭が二つあるように見せかけ（両者の頭の微妙な角度の違いがミソ）、車の中ではレイ・ミランドが後部座席から身を乗り出し、ロージィ・グリアの頭に自分の頭を並べるという具合。撮影中、さぞ両者ともに無理な姿勢による苦痛を強いられたことでありましょう。そんな二人が憎しみあい、罵りあったとて、なんの不思議がありましょうや。

　無理な運転がたたったのか、車がパンク、彼らは徒歩で逃げ出します。おりしも近くで行われていたモトクロスのレース、レーサーの一人が、よたよた歩いてくる双頭の奇怪なる人間をみて仰天し、バイクを捨てて逃げてしまいます。そりゃあ、そうだわな。ジャックはひらりとバイクにまたがるとフレッドを無理矢理後に乗せ再び追ってきたパトカーから逃走するのでありました。

　とっとと逃げればいいものをパトカーを後にしたがえて、オフロードのレースコースを爆走するジャック。彼の姿に驚いて次々に脱落していくレーサー達。ついに、パトカーも水溜りに突っ込んでクラッシュ。ジャックがトップでチエッカードフラッグをうけるというありがちなギャグが展開されます。そしてジャックはようやくレース場の外へ飛び出すのでした。

　これから、バイクとパトカー軍団の追いかけっこが延々続くのです。丘の向こうに消えていったジャックのバイクが慌てて戻って来る、その後から追いかけてくる無数のパトカー軍団という洒脱なギャグを皮きりに暴走するジャック、崖から転げ落ちるパトカー、ジャンプするジャック、くぼ地に突っ込むパトカー、このシーンで14台のパトカーがスクラップになるので、決して安っぽくはないのですが、同じことをエンエンやっているだけなので、物凄くタイクツなんです。それに、転げ落ちるパトカーの前部をよく見るとエンジンがなかったりしますが、そんなことを言ってはいけません。友達をなくしますよ。

　まんまとパトカー軍団を振り切ったジャックは恋人の家に逃げ込みます。恋人は驚き喜んで食事を出そうとしますが、なにせ、黒人嫌いのクリシュナ−博士のことですから、「わしゃあ、ソウルフードなんぞ、食わんぞ。めし、めしってなにかい、デザートはウォーターメロンかい」こんなこと言うから嫌われてしまうのです、この人は。ともあれ、ベッドについたジャック・クリシュナ−の双頭人間。クリシュナ−博士、ジャックが寝付いた後で、何時の間にか自分の意思で両手を動かせるようになっていたのに気づきます。にやりとする博士。

　さしたる理由もなしに今や、ジャックの無実を信じるようになっていたフレッドはクリシュナ−博士の切除手術を計画します。そして、ジャック・クリシュナ−と共に薬品の調達に出掛けるのですが、突如、体のコントロールを奪い返したクリシュナ−博士が、フレッドを殴り倒し、ぎゃーぎゃー文句を言っているジャックを無視して自宅へと戻ってしまいます。そして、クリシュナ−博士は手術台に横たわると自分でジャックの頭を切り取ろうとするのです。そこへようやく駆けつけたフレッドは・・・。

　フィリップ・デスモンド博士達がクリシュナ−博士の自宅で発見したのは「フィリップ、頼む、またドナーを見つけてくれ」と弱々しく懇願するクリシュナ−博士の頭部でした。そのころ、ジャック、恋人、フレッドの3人は車に仲良く収まって「ＯＨ! Happy Day,ＯＨ！Happy Day」　とゴスペルを合唱しているという・・・。全然私はハッピーじゃなーい。だいたい、真犯人ってのはどうなったんだよう。

　ジャック役のロージィ・グリアは12年間もの間活躍していた元プロフットボールプレイヤーということですが、なに、引退してから、こんな映画に出ているくらいですから、どうせ大した選手ではなかったのでしょうな。

　カラ−　シネスコ　レターボックス収録。スクイーズでないのは残念ですが、発色は良好で、いやなノイズもなくなかなかの高画質。モノラル音声も破綻なく聞き易いです。クローズドキャプションつき。

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