Mesa Of Lost Women (1953)

　あなた、ジャッキー・クーガンといえばチャップリンの『キッド』で世界中の涙を誘って「米國否世界の映畫界に君臨する小帝王の感ある流行兒」と謳われた名子役なんですけれども、こんなゲテモノ映画にも出ていたんですな。例えて言えば、「池中玄太80キロ」で大人気となりながらも、その当時から酒飲んでいて、長じてから振られた彼氏の会社に乗り込んで行って荒れ狂ったという杉田かおるのようなものでしょうか、あるいは58年の夏の甲子園準々決勝で、延長18回投げぬき、日本中を感動させながら、お笑いタレントとなってテレビでにやにやしている坂東英二みたいなものなんでしょうか。

　で、問題の（笑）、『ＭＥＳＡ　ＯＦ　ＬＯＳＴ　ＷＯＭＥＮ』であります。直訳すると『消えた女の岩山』、もうタイトルからしてダメな予感がするのであります。メキシコのムエトロ砂漠（もちろん、こんな砂漠は実在しない）をさまよう男グラント（ロバート・ナップ）と女ドリ−ン（マリー・ヒル）、つかみとしては上々なのですが、例によって“人間とはおろかなものである”式のナレーションが五月蝿いといったらない。ながながべらべらと具体性のないことをしゃべりおって、この手のナレーションはＺ級映画に不可欠なものではないかと哲学的なことまで考えてしまいましたよ。さて、半死半生でよろばうように砂漠を歩くグラントとドリ−ン、たまたま通りかかった石油会社の調査員によって助けられます。病院で意識を取り戻したグラント、「なぜあんなところにいたんだ」という保安官の問いに答えて、自分のキッカイきわまる体験を語り始めるのでした。

　砂漠の岩山にやってきたマスターソン博士（ライル・タルボット）、グラント、お前なぜそんなことを知っている、これはお前の体験じゃなかったのか、いきなりの人称の不一致にがっくりきますが、こんなことでめげているようではこれから繰り広げられる、映画というジャンルの自殺のような惨劇に耐えられません、みんな、もっと強くなれ！マスターソン博士は普通の人より無闇に頭が地面に近い人やウスものまとったねえちゃん達がたむろする岩山の中にある研究室へ入っていき、アランヤ博士（ジャッキー・クーガン）と面会します。

　ジャッキー・クーガン、子役時代の面影は微塵もなく、いわゆる中年ハゲ。なんとなく油ぎっていて、もしこの時代にＯＬがいたら絶対お茶の中に雑巾の絞り汁入れられてますな。1915年の生まれだから、この時、彼は38歳、それでこのハゲ方はないでしょう、反則です。

　マスターソン博士、アランヤ博士の研究に感銘を受け、手伝おうとはるばるこの岩山にまでやってきたのです。しかし、彼は博士の研究の実態“クモの毒を人間の美女に注入して、スーパーウーマンをつくる、どんどん毒の量をふやすと巨大クモになる”を聞いて驚愕、研究室のついたての陰に本当にいた巨大蜘蛛をみるにおよんでびびってしまい、「とんでもない、こんな研究なんか手伝えるか」アランヤ博士、顔を歪めて「それは悪い選択をされましたな」研究室にたむろしていた美女の一人、タランテラに目配せします。タランテラ、マスターソン博士に怪しい薬をぶすっと注射。数日後マスターソン博士は砂漠でクルクルパーになっていたところを救助されます。クルクルパーなので、当然、精神病院に入れられてしまうのです。

　この女、確かにナイスバディーで美人なのですが、全身から漂う“アタシってばチョ−Ｅー女だからさ、ぺっ、お前は犬になれ！”的な高慢ちきさがなんとも鼻につきます。そんなにお高くとまっているからこんな映画に出る羽目になるんじゃ。ざまあみさらせ。

　精神病院を脱走したマスターソン博士、酒場に現れます。クルクルパーらしくバーテンの差し出したコップを断り、自前の折畳式コップで酒を飲む、狂気の演技が秀逸、秀逸。ここで、ようやくドリ−ンが登場。ただし、一緒にいる禿のオヤジは彼女の夫のジャン・ヴァン（ニコ・レック）であり、グラントではありません。つながり、悪いですなー。この夫婦、飛行機の故障で足止めされており、酒場で暇を潰そうとしていたのです。マスターソン博士はドリ−ンに一目ぼれして、「オクサンハキレイデスネ」と二人に絡み始めるという・・・。そんな愉快な3人に「飛行機はまだ直らないそうです」と言いにくる謎の東洋人ミスター・ウー（サミュエル・ウー）、そして、マスターソン博士を捕まえにきた精神病院の看護夫ジョージ（ジョン・マーティン）も現れてややこしいのなんの。

　突然踊り出す美女、あっ、あれはマスターソン博士をクルクルパーにしたタランテラ（タンドラ・クィン）ではありませんか。マスターソン博士、「アイツハワルイ」といって取出したピストルで彼女を射殺。驚くドリ−ン・ジャン・ジョージを人質にして逃走します。空港で「まだ故障直っていないんですけどねー」と渋るグラント（やっと出て来たよ）を脅して飛行機に乗り込むのでした。なぜかこの空港にミスター・ウーがいてこいつも飛行機にのるんだけど、私にはさっぱり訳がわかりません。一方、酒場のマスターが警察に電話しているまえでむくむくと起きあがるタランテラ。なるほどスーパーウーマンですな。

　定石通り飛行機のエンジンが故障、何者かがコンパスをも壊していて、たまたま偶然にあのアランヤ博士の研究室のある岩山に不時着するのでありました。呆然とする5人、こっちだって呆然としています。そんな彼らを木の影から（そう砂漠の真中の岩山なのに森があるのです）窺っているアランヤ博士の普通の人より無闇に頭が地面に近い人とウスものまとったねえちゃん軍団。見つかりそうになるとがさがさと森の中に逃げ込むというアホ場面が執拗に繰り返されます。なんじゃ、こりゃ。

　周囲を調べにいったジョージ、何者かに襲われて殺さます。手を繋いでみんな一列になってジョージを探しにいく、残りの人達。この時、ドリ−ンが髪飾りをなくしてしまい、ジャンが「あれは高かったんだぞ、どうするんだ」と見苦しく騒ぎ始めました。あげく、ミスター・ウーに探してこいと命令してドリ−ンの顰蹙をかうのでした。ミスター・ウー、森の中に消えていきますが、なんとアランヤ博士の研究室に姿を現わします。彼はアランヤ博士のスパイだったのです。マスターソン博士をこの研究室に連れてくるという使命を帯びたスパイだったのです。とてもそうは思えないけど、スパイなのです。仕方がないじゃないですか。「マスターソン博士は来たか」とミスター・ウーに問うアランヤ博士。「きました。しかし、残りの人達はどうするのですか」ちょっと良心の呵責を感じているらしいミスター・ウー。「そいつらの処分は考えてある」アランヤ博士ギロッとミスター・ウーを睨み「なんだ、お前、不満があるのか、おるあっ！」博士の合図でミスター・ウーに飛びかかる美女軍団。殺された！

　ミスター・ウーの死に責任を感じたジョン、ドリ−ンもここぞとばかり夫を責めたてます。この女、まったくひどいんで、夫が頼りにならないとみるや、みんなが寝静まったあと、見張りにたっていたグラントに色目を使い始めよるのです。「私はお金で買われたようなものよ」なんて言うのです。グラントもまんざらではないらしく、その気になりかかったところで、現れる普通の人より無闇に頭が地面に近い人とウスものまとったねえちゃん軍団。ギャ−と叫んで逃げたジョンは大蜘蛛にやられ、残りの3人は抵抗する術もなく、アランヤ博士の研究室に連行されるのでありました。

　アランヤ博士は再び、怪しい薬液をマスターソン博士に注射。一瞬で正気に戻るマスターソン博士（笑）。そんなマスターソン博士ににやりにやりと「考えは変えて頂けましたかな」と話かけるアランヤ博士。しかし、マスターソン博士は「バーカ、バーカ、誰がお前になんか協力するか」と叫び、飛び起きると研究室にたまたまあった薬液を混ぜ合わせ、火炎ビンを作ります（本当なんですから）。彼はドリ−ンとグラントを逃がすとその火炎瓶を使ってアランヤ博士、美女軍団、研究室を焼き尽くし自らも果てるのでありました。ちゃん、ちゃん。

　はい、ここで、冒頭の病院のグラントに戻ります。ドリ−ンも意識を取り戻してめでたし、めでたし・・・・。

　モノクロ・スタンダード、画質はノイズだらけでぼんやりしてます。最低の画質ですが、こんな衛生博覧会みたいなクソ映画にはお似合いですな。音質ももごもごいって聞きとりずらいのですが、それにもまして頭に来るのが映画全編に渡って意味もなくかき鳴らされるフラメンコギター、ジャンジャカ、ジャンジャカって五月蝿いよ、台詞が聞こえないじゃないか。イメージ・エンタティメントのＤＶＤなので、紙ケース、フタがノリ弁式。

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